「木の文明」を考える(5)

第5回:なぜ、宮殿はヒノキなのか:法隆寺に学ぶ

★なぜ、宮殿はヒノキなのか:
飛鳥時代、奈良時代から現存する長寿の神社仏閣の建物はほとんどヒノキでつくられています。ヒノキを選んだ日本の「木の文明」の秘密を、世界最古の木造建築である法隆寺を例に、紹介します。
<事例: 法隆寺に学ぶ>
 法隆寺:世界最古の木造建築。1300年以上。(とくに、五重塔)
 単に古いだけではありません。
 湿度が高く、木材にとっては過酷な日本の気候。台風の襲来。幾多の大地震。これらが、長年、繰り返されたにもかかわらず、建物は、まったく傾いたり、ゆがんだり、壊れたり、朽ちたりしていません。その優美さ、美しさ、調和等、まったく衰えていない。きちんと維持されているところがすごいところです。

 法隆寺の五重塔は、7世紀に火災で焼失したものが、7世紀後半(600年代後半)に再建され、それが現在に残っています。奈良時代より前、飛鳥時代のものが、現在まで残っているわけです。

 1934年から20年以上かけて、昭和の大修理と呼ばれる大規模な解体修理が実施されましたが、それ以前は、1300年近く、本格的な大修理をしたことはないことからも、建物が、1300年を経てなお、寿命ではなく、きちんと生き続けていることがうかがえます。

<五重塔の長寿の秘密>
 ★第1の秘密: 材料の「ヒノキ」:
ヒノキは、ヒノキ科ヒノキ属の針葉樹で日本の固有種です。長野県では木曽ヒノキが有名ですが、本州から九州・四国まで分布しています。類似の種が台湾にもあります。建築の材料として、非常に優れていて、現代でも、高級素材の代表格です。
 木の、材料としての寿命は、種類によって異なりますが、数百年は持つものも少なくありません。と言っても、1300年も持っているのは、ヒノキだけです。一般に、木材は、年数を経るにしたがって、強度が低下し、もろくなっていきます。
ところが、ヒノキについては、材料の劣化が非常にゆっくりで、しかも、最初の数百年は、逆に、強度の大きくなります。そのため、1000年でも、初期の強度を保っており、2000年くらい使えそうです。まさに、長く使うための材料と言えます。現代の私たちも、ヒノキで家を建てる機会があれば、数百年持つ家を建てることが可能なのです。
 ヒノキと比較される建築材料として、同じ針葉樹である「杉」があります。これも建築に適した材料であり、ヒノキよりかなり成長が早いため、木材が不足していた戦後の日本では、大量に植林されました。(このことが、花粉症の流行の原因になっています。)一般建築用には、優れた材料なのですが、木材としての寿命は数百年が限度であり、神社仏閣の建築には使われません。
 ほかに、優れた建築材料として、落葉広葉樹の「欅(ケヤキ)」があります。太く、大木となり、木目が美しく丈夫なため、特に、中世以降の城郭の建築に多用されてきました。
 実は、木材としての初期の強度は、「ケヤキ」は「ヒノキ」より圧倒的に強いのです。ところが、材料の劣化が、ヒノキより早いために、500年くらいで、ヒノキと逆転します。1000年も経つと、最初の強度の4分の1くらいまで落ちてしまいます。(通常の建築では、500年も1000年も使いませんので、ケヤキも優れた材料と言っていいと思います。) 

 ★第2の秘密: 建築技術: 
仏閣の基本的な建築技術は、中国から渡来したものですが、短期間の間に、日本独自で大きく進化させており、日本の建築文化そのものになったと考えていいと思います。
 実物を比較すれば、一目瞭然です。
 中国最古の木造仏塔: 応県木塔(山西省の仏宮寺)  
1056年に建設を開始し、約140年掛けて、1200年ごろ完成。年代的にも、法隆寺と比べてかなり新しい。日本の鎌倉時代にあたります。
 特徴は、軒が非常に小さく、建物全体の外観も、高さに比べて、横幅はかなり太く作られており、塔の言葉のイメージからはちょっと外れている印象です。

 法隆寺の五重塔は、中国の塔と比べて、軒の大きさが4倍もあり、高さと太さ(面積)の比も、中国の5倍くらいあります。 すなわち、中国の塔は5倍も太く、ずんぐりしているのに対して、日本の塔は、はるかにスマートですっきりしています。
また、軒の大きさ、縦横比は、単なる寸法の問題ではなく、屋根の重量が非常に重くなり、それを構造が支える必要がありますので、かなり建築技術や耐震が難しくなります。 単なる形の違いではなく、根本的に、独自の高度な建築技術を持たなければ実現できません。日本の仏閣、とくに、仏塔に関しては、独自の文化・文明といっても過言ではないと思います。


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2014年01月04日 Posted byまこと(気象予報士)@地球環境 at 20:21 │Comments(0)環境問題解説

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